萩尾望都の「百億の昼と千億の夜」という漫画を読んだ。
この漫画は光瀬龍のSF小説「百億の昼と千億の夜」を原作としたもの。400ページ超えの割とボリュームのある漫画だったが、あまりに面白くて買ったその日に勢いで読んでしまった。
壮大な物語
「百億の昼と千億の夜」はとても壮大な物語だった。なんてったってこの漫画の序章は「天地創造」である。聖書と同じなのだ。
神の計画に翻弄される人間の営みが描かれている。プラトンやブッダ、キリストなどの賢人たちが主人公というなかなか大風呂敷な設定。
賢人たちは神と出会う。人々は神に救いを求めるが、神は世界を終わらせようとする。そんな話である。
ユートピア、アトランティス
ポセイドン神のもと、人々が幸福に暮らしているアトランティス。それが突然、ポセイドン神からアトランティス移動計画が発表される。
反発する人々。そう簡単にユートピアを捨てられるわけもない。だが、惑星開発委員会の計画だからと神が言う。
これはつまり、神も何人かいて、神々が計画を立てて実行しているということなのだ。この設定が面白かった。
プラトン、阿修羅、ブッダvsキリスト
さらに面白いのが、神側につくキリストと、真実を知りたいプラトン、阿修羅王、ブッダが対立して戦う構図だ。
露骨にバトルが展開される感じではないけど、キリストがその辺にいそうな軽薄なオヤジ設定だったりして面白かった。宗教がそれほど根強くない、日本人にしか描けないような物語だと思った。
人類の幸福な未来の形
主人公たちは真実を求める旅の途中で、とある星のとある街を訪れる。そこにはアトランティスとはまた違う、ユートピアがあった。
神が人類を統治しているという点では一緒だ。それでもこの星のシステムは、現代の僕たちも決して遠くはない未来の形として、想像しうるユートピアだった。
その星ではA級市民と呼ばれる人間達は、機械によって生かされている。神が管理する機械に繋がれているおかげで、恐怖や不安のない永遠の安らぎを生きている。
なんの煩わしさもない理想の世界がそこにある。でもそれは、幸せなことなのだろうか。
幸福とは何か
人々は幸福に暮らしたい。神へ救いを求める。じゃあ救ってあげるよと神は永遠の安らぎを人間に与える。けれども、この漫画の世界では、それはそれで地獄のように見えてしまうから不思議なものだ。
この物語では神の人類救済の方法=惑星開発委員会の計画ということになっていた。
アトランティスも、とある星の人を機械で管理する方法も、人類救済で試行錯誤している神の計画のひとつなのだ。そう考えると神、えらい。
おわり
人間には死の恐怖がある。何人たりとも抗えない現実だ。かといって、それを乗り越えるということは幸福なのか?そんなことを考える話だった。
死がなくなれば、時間という概念はなくなるだろう。そうするとそれはいいことなのかと頭を悩ませてしまうことになった。
神が悪く描かれているが、人間もまた傲慢に見えてくる。ああいえばこう言ってしまう、僕の日常と何ら変わりない。
どんなに物語が壮大になっても、人間の悩みの大きさは変わらない。
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